恋なんて、しないはずだった
「.......知ってる人はいない」


自分の学部にあてられた講堂に入ってすこしキョロキョロして、見知った顔が無いことに内心ホッとする。
普通なら「知っている人」を見つけてホッとするんだろうけど、あたしは逆だ。
知っている人なんて、怖くて近寄りたくないから。

知り合いがいる人たちがガヤガヤと騒いでいるなか、あたしは渡された紙に書いてあった自分の席を見つけて腰をかける。


「あ、こんにちは?いや、はじめまして.......?」


既に隣の席に座っていた女の子があたしに気づいて、声をかけてきてくれる。


「あ、はじめまして.......」

「これから宜しくお願いします」


人懐っこい笑顔であたしに話してくれる。


「こちらこそよろしくお願いします。あたし、辛島碧です」


「あたし、佐賀六花(さがりっか)です。よろしく」

「六花ちゃん.......よろしく」


隣にいた女の子は、とても人懐っこくあたしに話しかけてきてくれて、誰も知り合いがいない教室のなかで、唯一の光だった。


「ところでここまで来る時に一緒にいた男の子みたけど、彼氏ー?」

「あ、うん。高校から一緒で.......」

「わぁ、いいなぁ。あたしも彼氏が欲しいなぁ」

「六花ちゃん彼氏いないんだ?」

「うん、こっちに来る時に別れちゃって.......」

「そっかぁ.......」


六花ちゃんは、フワフワのパーマで可愛くて、目がパッチリしていて、絶対にモテる部類の子だと思う。

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