恋愛暴君のきみは、ときどき甘い

違う。

先輩のことはもう好きじゃない。


この溜め息の理由は、もっと別のとこにある。


だけど凌は、私が先輩のことを想って溜め息を吐いているのだと思っている。


「俺が忘れさせてやろうか？」


正直に言えばいいのにそうしない、ズルイ私。


黙って顔を上げれば、落ちてくるのは甘いキス。


分かっている、その言葉もキスも凌の気まぐれなんだって。

まんまと乗せられている私も私だ。


彼が私に触れているこの行為のどこにも、愛なんてものは存在しない。


だけど、やめられない。

凌のキスは、まるで媚薬のように、私の身体を熱くして何も考えられなくなる。


「はは、緊張してんの？」

「……ムカつく」


だって、慣れない。

好きな人にされるキスは、いつだってドキドキして、何度したって慣れるはずがない。


「お前やっぱり、俺のこと好きだろ」

「好きじゃない……」


……嘘。

ほんとは好き、大好き……。


「好きじゃないのに、キスはするんだ？」


自分で自分の首を絞めるような悲しい行為。


それでも良い。


だって、あなたは私の、忘れられない人。



だから今は、今だけは、私だけを見て…………。