恋愛暴君のきみは、ときどき甘い
『そういえばコウの彼女、ここ受かったって言ってなかった?』
『あー、そうだよ。俺のこと追いかけてきたんだって。可愛くない?健気でさ』
『じゃあ、あたしとは別れるんだ?』
『……それマジで言ってる?』
『あははっ、最低。年下の彼女にバレたら、殺されちゃうかもね』
先輩の浮気現場を目の当たりにして、私はその場から逃げ出した。
原田先輩は、中学の頃から仲良くしてくれていた先輩で。
卒業した後も、時々勉強を見てくれたりしてよく会っていた。
自然な流れで付き合うことになって。
同じ高校に行くのが楽しみだねって話していた。
自分の学力よりレベルの高い高校だったけど、少し背伸びをして頑張った。
そのはず、だったのに……。
行くあてなんてなかったけど、ここから離れられればどこでも良い。
そんな思いで走って、無意識に開けたのは屋上の扉。
一面の青空と、爽やかな空気。
その先には先客がいた。
『は?なんでお前ここにいんの?』
凌だった。
誰かが入ってくるなんて思っていなかったのか、慌てて上半身を起こした凌が、驚いたようにこちらを見ていた。
『……それ、こっちの台詞なんだけど』
なんでって聞かれても、普通に開いたし。
そう付け加えれば、
『ヤベ、鍵閉め忘れた』
凌が溜め息混じりに呟く声が聞こえた。