恋愛暴君のきみは、ときどき甘い


『好きにならなくても良いのなら、付き合ってやってもいいけど?』


それは、私も数多くいる凌の彼女の中の一人にならないかと言っているのだろうか。

そんなの、嫌……。


付き合っても、好きになってもらえないのが前提だなんて、そんな恋は悲しいし、意味がない。


……なんて、だからといって浮気されて失恋してたんじゃ説得力はないけど。


否定も肯定もしないで黙っていると、


『あ、そうだ』


おもむろに凌が立ち上がり、何かを思い出したような顔で私を見下ろした。


なんだろう……。

もしかして、今更キスをしたことで何か要求されるとか?

やっぱ今のナシって嘲笑われるとか?


『な、なによ……?』


何も言われても動揺しないよう、気を張っておく。

すると、呆れ顔の凌が私の前にしゃがんで目線を合わせてきた。


『なに警戒してんの?自分からキスしてきたくせに』

『そ、それはあんたが挑発するからでしょ!』

『……ふーん。俺のせいにするんだ?』


近すぎる距離。

凌の射抜くような視線は、どんなに予防線を張ったってすぐに破られてしまう。


こんなの、ドキドキしないのなんて無理……。


『連絡先、変わってないの?』

『え?変わってない、けど……』

『じゃ、あとでメールするわ』


それだけ言うと、凌は出口の方に向かって歩き出した。


あとでメールするって……それって……。


私のアドレス、消さないでいてくれたってこと?




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