恋愛暴君のきみは、ときどき甘い
ふと視線を感じて顔を横に向ければ、
「な、なに……?」
凌が私の顔をじっと見つめていた。
「……棗もしたりすんの?」
「なにが?」
凌の片手に握られている漫画のページは、主人公が思いを寄せている男の子に胸を高鳴らせているシーンだ。
もしかして、キュンのことを言っているのだろうか。
「ちょ、ちょっと……っ」
どうして凌って、いつも無駄に距離が近いんだろう。
後ろは壁。
いくら背中を仰け反らせたって、迫ってくるこの男からは逃げられない。
そりゃあ私だって一応女子だし、好きな男の子に甘い言葉を囁かれたり、こんな風に顔を近づけられたりしたら、キュンどころか心臓麻痺を起こしてしまいそうだ。
唇が触れるまで、あと数センチ。
ドキドキして口から心臓が飛び出してきそうだけど、微妙な距離がもどかしくて、早くきて、なんて大胆なことも考えてしまっている。
そっと目を閉じようとしたその時。
「……なんて、お前はそういうタイプじゃないか」
…………はい?
何事もなかったようにスッと離れていくと、凌はまた漫画を読み始めてしまった。
このまま甘いムードになるのを期待して、目まで閉じようとしていたのに。
目をパチパチと瞬かせて、凌の横顔を凝視する私はすごく間抜けだ。
勝手にスイッチ入れといて、それはないんじゃない?