恋愛暴君のきみは、ときどき甘い


「ねえ、呼ばれてるけど?」


目の前の男にそう言って指摘すれば、ほんの少しだけ目を見開いた。

たぶん、誰にも分からないくらいのそれ。

私も気付かないふりをして、ぱっと顔を逸らして頬杖をついた。


「おー。今、行く」

名指しされて呼び出された張本人はやる気なさげな返事をしながら、ふらりとドアの方に向かって歩いていく。


「あの人、美里(みさと)先輩じゃない?」


その場に私と里奈の2人になった瞬間、里奈が小声で言った。


……ああ、たしかそんな名前だったような。

サッカー部のマネージャーをしていて、美人な上に気が利いて、どうにかして付き合えないだろうかと男子がバカ騒ぎしていたのを聞いたことがある。


さりげなくゆっくりと視線を動かして、さっきまで一緒にいた男子の後姿をぼーっと見つめた。


あいつの名前は、一ノ瀬凌(いちのせりょう)。

うちの学校で、一番女の子に節操のない男は間違いなくあいつだ。


「一ノ瀬くんて、まさか美里先輩とも付き合ってるの?」

里奈のうんざりとした目に同意するように、私も小さく笑った。

「……さあ、知らない」


2人でいるところをこうやって見つめていたって仕方がないので、雑誌の続きを見ようと手を伸ばす。


だけど次に捲ったページが例の特集記事だったから、自分の表情がまた強張り始めていくのに、私は溜め息を吐いてやり過ごした。


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