恋愛暴君のきみは、ときどき甘い
「その特集、昨日家で読んだんだけどさあ」
チョコレート菓子を口に咥えながら、里奈が雑誌を指差す。
そのことにどきりとしながら、私は必死に平然を装った。
「あたしにも一人いたわ。どうしても忘れられない人」
「え……っ、だ、誰?」
そんな人が里奈にもいたなんて。
思わず机に身を乗り出す私。
容姿の整っている里奈のことだから、彼氏の一人や二人、今までにもいたのだろうけれど、今付き合っている人はいないはず。
もしかしてそれは、新しく好きな人が出来ないくらい、昔好きだった人のことが忘れられないから……?
遠くを見つめる里奈の瞳が揺れているように感じた。
その人のことを思い出しているのか、切なげな表情にどきどきしながら、私は黙って見つめる。
「あたし中学の時、電車通学だったんだけど、向かいの席に座ってた大学生くらいの男の人が泣きながら話してたのよ」
そうか、その人の涙を見て里奈は恋に……?
「俺、明日の誕生日がきたら妖精になるんだ……って」
「…………は?」
「あれ?おかしいな。ここ笑うとこなんだけど」
「ごめん。真面目な話だと思って聞いてたから」
まさかそんなオチだとは予想していなくて、言葉を失ってしまった。
というか、真面目に聞いて損した。
「いや、あたしだってあんな話聞きたくなかったから。今でも忘れないわ、あの車内の微妙な空気……。終点まで同じ電車に乗ってなきゃいけないこっちの身にもなれっていうね」