恋愛暴君のきみは、ときどき甘い
やれやれと首を横に振りながら、大きな溜め息を吐く里奈だけど、溜め息を吐きたいのはこっちの方だ。
どうせならもっと参考になる話が聞きたかった。
そう思うのは、私にもいるから。
どうしても、忘れられない人が。
「一ノ瀬くんにもいたりするのかな。忘れられない人とかって」
「なんでそこでいきなり凌の話になるのよ」
「だって気になるじゃない。あれだけモテて彼女にも困らないような男だよ?」
「ないない。絶対ないから」
凌は学校一といっても過言ではないくらいのモテ男。
来る者拒まず、去る者追わずのプレイボーイが、そんな一途な心を持っているなんて考えられない。
もしそうだとしたら、きっと天地がひっくり返る。
それくらい、ありえないことなのだ。
「というか、棗と一ノ瀬くんて意外と仲良いよね。あんな風に女子のことからかいに来るのだって珍しくない?もしかして付き合ってんの?あんた達」
「ま、まさか!私は断然、自分のことだけを好きでいてくれるような真面目な人がタイプなの。だからあいつのことだけは絶対に好きにならない」
「……だってさ。一ノ瀬くん」
「…………へ?」
いつの間に戻ってきていたのだろう。
里奈の視線を追って顔を横に向ければ、冷ややかな表情をした凌に見下ろされていた。
「俺だって、お前だけは無理」