同期は蓋を開けたら溺愛でした
9.理性と衝動
「恵麻」
「ん……」
頭を撫でる優しい温もりに目を覚ます。
寝てたんだ……。
大友のアパートに来るのも久しぶりで、到着と同時に力尽きて眠ってしまったらしい。
ここに来ようかどうしようかと散々迷い、鍵を川にでも投げ捨ててやろうかとまで思ったくせに、結局は大友の言う通りアパートに来ていた。
アパートの鍵が川に捨てられる直前だったとも知らず、大友は不平を口にする。
「頼むから玄関で倒れるように寝ないでくれない? 何かあったのかと思って寿命が縮む」
運んでくれたのか、今はベッドで横になっていた。
その私を慈しむように撫でる手に縋ってしまいたい衝動に駆られる。
「ねぇ。雄、ギュッってして」
「は?」
両手を広げ、大友の体に腕を伸ばす。
「慰めてくれるんでしょ?」
目を見開いた大友が片手で顔を覆う。
「……馬鹿言うな。人の弱みに付け込む悪魔か。お前は」
「悪魔はそっちじゃない」
よろよろと後ずさりした大友が、離れた場所にドスンと大きな音を立てて座った。