同期は蓋を開けたら溺愛でした

 定時になると同時に、大友から誘われる。

「この後、空いてるか」

 私もパーッと飲みたい気分だった。
 もう随分、いつもの居酒屋にも飲みに行っていない。
 店長も心配しているかもしれない。

「そうだね。久しぶりに飲みに行こうか」

 乗り気で返事をしたのに、大友は言葉を濁す。

「ああ、まあ。俺ももう終わる。一緒に出よう」

 パソコンを落とす大友に倣って、私もパソコンを落とした。

 外は雨が降っていて、傘をさして並んで歩く。
 傘が邪魔をして自然と距離は離れるしかない。

 こんなの今までだって普通なのに、どうしてかこの少しの差を寂しく感じた。

 行き先はいつもの居酒屋ではないのか、駅に向かう大友について行き、電車に揺られる。
 通勤客で混雑する電車の中では会話もなく、行き先は分からない。

 電車を降りても傘が邪魔をするせいなのか、意思の疎通は図れないまま。
 歩き続ける大友についていくだけだった。

 そして、あるお店の前で立ち止まる大友を仰ぎ見る。

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