同期は蓋を開けたら溺愛でした

「ここ……」

「ここ」

 もちろんいつもの居酒屋じゃない。
 立ち止まったところはお洒落なイタリアンレストラン。

 中に入ろうとする大友にギョッとする。

「え、待って、待って」

「何? 不満?」

「不満っていうか……」

 私たちにこういう要素は必要ない、はずで……。

 大友は私の傘を受け取り、傘立てにさして私の手を引いた。

 当たり前に繋がれる手にドキンと心臓が飛び跳ねる。

 無闇に触れない同期の距離はもうどこにもない。
 あの頃の距離には戻れない。
 その事実をひしひしと感じていた。

「何にする?」

 メニューを広げ、聞いていくる大友の顔をまじまじと見つめる。

「……何?」

「だって、大友とイタリアンだなんて」

「嫌? お前パスタ好きだろ」

「好き……だけど」

 それはコンビニで何を買おうかなって迷った時の話で。

 ここだって特別、高級店というわけじゃない。
 ちょっとお洒落で恋人が普段のデートで食事するような場所。

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