同期は蓋を開けたら溺愛でした
里美と話したあと、早く謝りたくてアパートの前で大友の帰宅を待つ。
どこかに出かけているのか、帰っていないようだった。
雨に濡れた紫陽花がアパートの脇に植えられている。
いつもは目にも止めないくせに、今は紫の花が綺麗だなと感傷に浸る。
「恵麻……」
つぶやく声を聞いて振り向くと大友が立っていた。
閉じた傘からは雨が流れ、足元に水たまりを作る。
雨音が邪魔をして、声を聞くまで大友が帰ってきたことに気づけず、気持ちが動転する。
「押しかけるような真似して、ごめん」
なんとか絞り出した声に大友は答えない。
悲しくなって、それでも言葉を続けた。
「顔も見たくないのは、分かってるんだけど……」
私の存在はないような素振りでアパートの鍵を開ける大友に心は悲鳴をあげる。
ここに来てしまった後悔が押し寄せて動けずにいる私に、大友はかろうじて声をかけた。
「……入れば」
こちらを見もしない大友は冷蔵庫へ直行する。
私はいつもの場所に座っていいのか、悩んで玄関で立ち尽くした。