同期は蓋を開けたら溺愛でした

 結局、Tシャツ1枚しか買っていないのに「このあとどうする?」と言われ、不服顔で申し入れる。

「もっと大友の服を買おうよ」

「俺のはまたでいい」

「またって、見足りないんでしょ?」

 懸命に訴えているのに、手を引かれエスカレーターを降りて行ってしまう。
 そして大友は何かを見つけたように悪巧みをした顔を向ける。

「お前こそ買い忘れ、あるんじゃないのか?」

 大友が顎で指し示した方へ顔を向けて、バッと顔を元に戻した。

 エスカレーターで私の方が後に乗ったせいで一段上にいて大友と目線が近い。
 
 大友の瞳は楽しそうに弧を描く。

「見立ててやるけど?」

 そこは下着売り場で、たまたま恋人同士なのか、男女で見ている人たちが視界に入った。
 信じられない。
 どういう神経で一緒に選んでるんだろう。

 もちろん大友にも力一杯、拒否をする。

「買わない」

「いいのか? 替え、なくて」

「それは……。洗濯する」

 ブッと吹き出され、笑われて黙り込む。

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