同期は蓋を開けたら溺愛でした
会場の片付けを済ませ、帰路に就こうかというところで、様子を見に来てくれていた原田課長から、思わぬお叱りを受けた。
「おい。青木。『サラット』の正式な発売日をお客様にお伝えしなかったのか」
「え、あ……そういえば、言い忘れていたかもしれないです」
「そういえば、じゃないぞ。文房具フェスが終わって間もないのに、会社に問い合わせの電話がかかってきているらしい」
「す、すみません!」
私は慌てて頭を下げると隣に立つ大友から、いつもの呆れ声をかけられた。
「ったく。謝るより喜べよ。それだけ注目されたってことだ」
ガバッと顔を上げると、原田課長も優しく微笑んで頷いてくれた。
「これから大変だぞ。もっと問い合わせの電話が増える。後発の案も早めに固めろよ」
結局、大人向けのカッターは今回の文房具フェスに間に合わなかったのだ。
原田課長らしい愛のあるハッパをかけられ、胸がいっぱいになって言葉に詰まる。
「はい……。あり、がとう、ございます」
切れ切れになりながらも言葉にすると、隣に立つ大友が私の頭を抱えるように引き寄せた。
「青木が泣き出すと困るんで、俺らこれで失礼します」
「ああ。いつも青木の子守りを頼んで悪いな」
「慣れてますから」
憤慨したくなるような会話も、今日は何も突っ込めない。
大友に抱きかかえられるように帰路に就いた。