同期は蓋を開けたら溺愛でした

 見事にビールに濡れた大友が先にシャワーを浴びに行く。
 私も濡れはしたけれど、大友ほどじゃない。

 慣れ親しんだ大友のアパートなのに、どこか居心地が悪い。
 それでも定位置に座るしかなくて、小さくなって膝を抱える。

 不意に物珍しいものを見つけ、プッと息を漏らした。
 視線の先には無造作に転がる鉄アレイ。

「あれ以上、鍛えてどうするんだろ」

 ムキムキの大友が漫画や映画みたいに、着ているシャツを気合いだけで破いてしまうところを想像してまた笑う。

「ヤダ。似合い過ぎ」

「なにが」

 滴る雫をタオルで押さえながらこちらに来た大友に、心臓は飛び跳ねる。

「べ、 別に。ただ、大友鍛えてるのかなぁって。どこ目指してるのって笑えちゃって」

 大友のことだから「男は筋肉だろ」って当たり前みたいな顔して言うのか、「鍛えるのは基本中の基本だろ」とか、とにかく普通に返ってくると思った言葉。

 それなのに大友は鉄アレイをそそくさとベッドの下にしまう。

 そこ、なの?
 普通、そこって見られて困るものを入れておくところじゃない!?

 余計におかしくて吹き出しそうになりかけて目を丸くする。
 大友の、背を向けた後ろ姿から見える耳が赤い。

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