私の主治医はお兄ちゃん
瀬「んー…麻酔してから結構時間経っちゃってるからもう一度追加しようか。まだギリギリ麻酔効いてると思うから痛くはないと思うけど…」
そう言って瀬川先生は麻酔の注射をしなおし始めた。
瀬「さてと…少し時間起きたいから話だけでもしようか。」
駿「別に話す事ないです。」
瀬「寂しいなぁ〜。そんな事言わずに話そうよ〜。」
すごく明るくてムードメーカー的な人。
きっと、この人を嫌う人は少ないだろう。
瀬「優也も素直じゃねーんだわ。俺からすると。」
俺が答える事を待つこともせずにその人は話し始めた。
駿「優兄も?」
瀬「うん。だってさおかしいと思わない?内科医が縫合なんて。普通整形外科の俺らでしょ。」
…たしかに。
言われてみればそうだ。
でもなんで?
瀬「あいつも出来なくはないんだけどね。もちろん。でも…俺がやろうか聞いた時あいつは首を縦には振らなかった。きっと相当心配だったんだと思うよ。」
駿「心配……」
心配。そうだよね。
分かってるんだよ。最初から。
瀬「まー俺が知った事じゃねーけどな。あいつの気持ちなんて。」
そう言いながら少し意地悪そうな顔で笑って瀬川先生は縫合を始めた。
瀬「でもさ、駿介くんが彼女にはお前は1人じゃないって思ってるのと同じでさ、駿介くんだって1人じゃない。心配してくれる人が他にちゃんといるって事。」
瀬「それは分かってあげないと…心配してる人が可哀想なんじゃない?」
駿「はい…。でも俺…」
え、なんで俺泣いてるんだ?
痛いからでもないし辛いからでもない。
この人は心の奥まで浸透してくるような言葉を与えてくる。
分かったんだ。自分でも。
瀬「うん。分かってるよね。なら今はさその心配してくれる大事なお兄ちゃんを頼ってあげるべきだよ。」
駿「でもなんて……謝らないといけないし。」
瀬「今回は謝らなくたってアイツは分かってくれるよ!まず先に熱が高いことはちゃんと伝えないとな?アイツは兄である前に駿介くんの主治医なんだから。」
駿「え…」
瀬「待って。俺一応医者だよ!?そんなになめられると困っちゃうな〜」
ふざけた調子でそう言うと再び笑顔になった。
瀬「俺からアイツに何も言わないから直接伝えてあげな。じゃ、俺行くわ〜抜糸は多分優也がやりたがるだろうから、また何かあったら声かけてな〜バイバイ!」
瀬川先生は手を振りながらそう言って病室を出て行った。
あ、お礼言い忘れたや。