はやしくんに、紫陽花の花束を。
食事が始まって賑やかになっている今、別に席を立っても不思議ではない。
これは確認せねば、と思い「本物かどうかだけ確認してくる」と言って柳瀬の元から離れる。
座席表を見ても、いまいち席がわからないので、とりあえずフラフラしてればそこら辺に行けるだろうと思い、飲み物を取りに行くフリをする。
キョロキョロしていると、誰かにぶつかった。
あぁ、これがはやしくんならな、なんて妄想しながら「ごめんなさい」と言ってぺこりと頭を下げると、ぶつかった相手が男だったと言うことが足元で分かった。
「あれ、ななせ?」
「…はやしくん?」
「うん、久しぶり」
この淡々と喋る愛想のない感じ…覚えてる。私が大好きで大好きでたまらなかった人だ。
私たちは高校生の時、よくメールをしていたんだけど、その時にお互いの名前をひらがなで打っていたの。当時の印象が強くて、なんとなくふわふわしてて良いなと思ったから、今も私はひらがな表記のままなわけで。
それに、この無愛想な人には少しぐらいふわふわした感じ、欲しいでしょ?
「あぁ。ななせ、奥さんの方の友達なんだ」
「大学ですごく仲よかったの!はやしくんは新郎さんと仲良いの?」
「うん。中学の友達」
そう言えば、はやしくんと出会ったのは私の高校の時に知り合った男友達がキッカケだったっけ。
ある日突然その友達から電話がかかってきたと思ったら、はやしくんの声がしたわけで。勿論私は何が起きてるかさっぱり分からなくて、とりあえず「誰ですか?」って聞いたけど。
「はやしくん…結婚は?」
色々すっ飛ばして、未練タラタラの私は一番気になることをどストレートに聞く。はやしくんは勿論一ミリも同様しない。
そして、少し眉を下げて笑いこう言った。
「してるように見える?」
「見えない」
「でしょ、ななせは俺の性格知ってるでしょ」
面倒臭がりで、恋愛には興味ない。
私が知っているはやしくんはこうだった。
つまり、そのまま大人になったってことだよなぁ。それって望みないじゃん、私。