はやしくんに、紫陽花の花束を。
いちごのあか
朝。早番だった私は少し寝坊をしたものの、いつもと同じ電車に乗って通勤。
街中にある大きなデパートの小さな従業員入り口に入り、ロッカーに向かって歩く。
はやしくん、何十店舗もある菓子屋から、私の働いてる店なんて見つけられるのだろうか…まぁ期待せずに働いていよう。今日会えなくても、今の私には連絡手段があるのだ。
「七瀬お前、今日キモいぐらいご機嫌だな」
「え、店長分かっちゃいますか!?私そんなににやけてますか!?」
「キモいことしか分からん」
早番メインでよく入る私と店長。ちなみに店長は30歳の男性。面接受けた時は、ケーキ屋の店長で男の人なんて珍しいなー!なんて思ったけど、 デパートには結構多い気がする。
そして店長のファンも多い。外面は良いけど裏では、あの子可愛いから接客してくる!とか、サッカーの試合で応援してるとこが負けたからもう帰るだとか、めちゃくちゃなこと言ったりやったりしている。
それでもまぁ、接客態度は神レベルで良いし、デパートからも称賛の声が届いているほどなので特に文句はない。
「ついに彼氏できたか」
「惜しいです」
「は!?まじで?男関係なの!?」
入社当時から、男の人が得意ではない話をよくしていて、とりあえず俺で慣れておけと励ましの言葉をかけていてくれた店長。
そりゃ驚かないわけもないわな。
「今日、私のことをこのデパートから見つけ出してくれるらしいです」
ショーケースを吹き、焼き菓子を補充しながら雑談をしていると、店長は青ざめた顔で私の頭に手をポンと置いてぐりぐりと撫で始めた。
「かわいそうに…さすがにノーヒントじゃ無理だろ…何店舗あると思ってんだよこのデパートの中に」