国境の光
秋が近づくと今野さんは、真剣に魚釣りを始めた。
景子が通りかかる度に、今日は魚がとれないとか、今日はとれたとか言った。
景子もまた、一つの夏で、身長が伸びた。それは、貴洋も同じだった。

貴洋は、美男子だった。それは、周りの女子も認めていることだった。
背が高く、制服の白いワイシャツが、良く似合った。
貴洋は、景子をいつも「三国」と、呼ぶ。
その度に、気恥ずかしい気持ちになった。
夏が終わると、海の凪は、穏やかだった。
貴洋は、海のくすんだ青に似た灰色の中にも、緑色が見えると言った。
そういう貴洋の様子が、景子は好きだった。 

海鳥が高く飛んでいた。そして、海鳥は、見えなくなった。
景子は、長いため息を突いた。
海鳥は、くるくると飛ぶ速度を強めると、景子の視界から、見えなくなったのだった。
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