ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「ふうん、残念。そこには僕のとびきりの笑顔を写し取った肖像画があるんだけどなあ」

「そうですか」としか言えなかった。

「ここには慣れたぁ?」

彼は鼻に掛かったような、間延びした声で訊いてきた。

「まあ、どうでしょうか」

「洞窟暮らしよりよっぽどいいと思うけどなあ。ゴージャスで何不自由ないしぃ。創手様に目を掛けていただくなんて、超光栄なことだよ?」

あのアジトを知っているような口ぶり、しかし後半の話題はあたしが避けたい内容だった。

「ナオヤ、あいつ、元気にしてるう?」

「知り合い、ですか?」

ふん、と鼻を聳やかし、ディランは腕を組む。

「ここで彼を知らないものはいないよ。それにかつて僕は彼の親友だったしねえ」

「親友?」とつい懐疑的な声色になる。

「そうとも。それより、君ってほんとにぜんまいがないんだね。その服の下、どうなってるの?」

ディランの黒いマニキュアを施した手が近づいてくる。

あたしは拒絶反応から、ポップステップで二歩飛びさする。ディランは甲高い声で笑った。
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