ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「きゃははは、冗談だってば。本気にしないでよね。僕はディラン・キャニングだもの。一人の女の子だけに優しくしちゃファンの子が怒っちゃうもん」

あたしは閉口し、外にでも逃げ場を探そうと回れ右をする。

「ねえ、どこいくの? 君の部屋はそっちじゃないでしょう?」

「別に、散歩です」

「創手様からは逃げられないよ」

ディランは唇の端を上げ、あたしを揶揄するようにほくそ笑んでいた。

「この世界は全てが創手様の手の及ぶ所にある。誰も君から目を離さないよ。絶対にね」

あたしはその日、昼になるのを待ち、寝巻きにブーツを履いてベッドを抜け出した。

ドアに耳を押し付け、外に人の足音がないか探る。何も聞こえない。

「よし」

ドアノブに手を掛け、回そうとし、そのまま一時停止した。

ドアノブは回らなかった。外から音もなく施錠されていたのだ。

あたしは青くなり立ち尽くした。お伺いを立てるまでもなく、あたしは閉じ込められている。

逃げられないように、窓のない部屋にあたしは軟禁されているのだ。

それはまるでベッドで毎日を過ごしていた理不尽な日々を思わせた。

不自由。
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