ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
6日目の夜、創手はあたしを自分の部屋に導き入れた。

彼の私室はお城の奥の、そのまた奥にあった。

天井に星空を映す大きな丸い窓があり、水色の壁には白い雲や、太陽や、星や、月。そういう象徴的な物が一面に描かれている。

ポップなカラーリングの積み木やクマの縫いぐるみ、木馬。おもちゃ箱をひっくり返した、プレイルームみたいな空間だった。

88歳の人間の部屋ではない。それは間違いない。

創手が床に落ちていたブリキのプロペラ機を手に取る。

一等何気ない面持ちでプロペラを指でくるくる回している。

「あっちに戻りたい?」

あっち、というのはどっちだろう。あの荒野のことか、それとも病院か。

「ずっと一緒にいてくれるよね?」

肩越しの彼の目は、自分はとても孤独なんだと訴えていた。

それが分かり胸が痛むも、目線を斜め下にかわした。

現実の世界には帰りたくはない。でもこの城にいたい訳でもないからだ。

創手の世界に救われておきながら、あたしはとても我が侭になっていた。
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