ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
創手はガラスのキャビネットの前に立った。

高さ2メートルはあっただろう。両開きのガラスの扉が付いている。

その中に収められている物が何だか分かり、まざまざとした恐怖を自覚した。

優雅な手つきで創手はガラス戸を開く。

「綺麗でしょ?」

自分の世界を自慢していた時と同じ声だった。

あたしは全身の血が下へ下へと落ちていくのを感じた。

創手は愛おしむようにそれの赤いドレスを撫でる。

「こうはなりたくないでしょ?」

こう、というのはヒメだった。

創手のマントと同じ真紅の色をしたフリルだらけのドレスを着せられ、バレリーナのように完成された角度で、腕を斜め上に伸ばしている。

丸い台座の上で、銅像のように動かない。

アジトの写真と寸分違わぬ顔立ちだったが、その瞳は紫水晶のように透き通っていた。

比類ない美を備えた花が、花びらを広げた瞬間で切り取られた、そんな風に痛ましくも艶やかな姿だった。

ヒメはフランス人形に成り果てていた。
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