ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
お伽話をしているかのような彼の横顔が、まるで年齢不詳の吸血鬼のように映った。

「君は違うと言って。傍にいてよ」

創手の手があたしの頬に到達する。

あたしは恐ろしさに穿たれて、震えることすら出来なかった。指先から確かに彼の温もりが感じ取れるのに、吐息は氷のように凍えている。

「僕に、君の記憶まで奪わせないで」

額の裏側で何かが蠢いた。

「今のままの君と一緒にいたいんだ」

創手の青い目に吸い込まれそうになりつつ、その何かがあたしを繋ぎとめた。

「……記憶?」

硬化し掛けた唇で言葉を繰り出す。あたしはそれに非常な努力を費やした。

「返して。ナオヤさんの記憶」

創手の動きがぴたりと止まった。
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