ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
外は新月の夜。城内に警報が鳴り渡る。

緊張感を煽るサイレンの音に、あたしの血流は右肩上がりだ。

サーチライトが忙しなく辺りを照射している。

城の廊下に出たバイクは、小回りを利かせ、しゃにむに階段を昇った。

カクテルシェイカーの内部にいるように揺さぶられ、あたしは何度も振り落とされそうになる。

「黒谷!どっかに掴まれ!」とルークの声が飛び、「は、い」とどうにか返事をした。

サイドカーは車体をあちこちぶつけ、兵士を轢きそうになりながら、城壁の間を抜けて走っていた。

ルークは低い前傾姿勢で銃弾を避け、クラッチとブレーキをコントロールしている。

普段は見ない彼の男気と逞しさに、いたく感服した。

かっこいいと言っても差し支えないだろう。ルークはただのぽっちゃりはなかった。戦えるぽっちゃりだ。

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