ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
第3章

ゴロー

新しいアジトはうらぶれた町外れにある、閉鎖された紡績工場だった。

赤茶けた古いレンガ造りの工場内部では、水車を動力とした何百錘もの紡績機が、埃を被りながらその時を止めている。

うろ覚えだが、昔社会の教科書で、こういう工場内の白黒の写真を見たことがある。どれもかなり旧式の機械のようだ。

至る所に赤錆が浮き、取り付けられたままの糸も、原糸なのかクモの巣なのか、うやむやだ。

時代遅れの機械の列の間を歩いていたら、目の前のナオヤが眩暈を起こしたように、やにわに糸巻き機に倒れ込んだ。

舞い上がった埃が、隙間から差し込む日光を、まるでスポットライトのような光線に見せる。

ガタンという物音に、前の方を歩いていたゴローとルークも背後を見向く。

「おい、ナオヤ、大丈夫か?」

ゴローが、うな垂れたナオヤを覗き込む。目の色を確かめたのかもしれない。

「あの、あたしが」

それだけ言うと、ゴローとルークはあたしの意図が読めたかのように了得する。

「先に行ってるからな」

二人はあたしに後を委ね、ナオヤを置いて奥に消えた。
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