ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
肩を貸し、ナオヤをゆっくり織機の脇に座らせる。

埃を手で払い、長い前髪を指で額から除けてやると、生え際に薄く汗が光っていた。

その下で、初めて会った時と同じくらい、飢餓感の蔓延はびこった金色の目があたしを映していた。

罪悪感をお腹の中に潜ませながら、彼の背後に回る。

「すみませんでした」

「何故、謝るんだ?」

覇気のないナオヤの声。

巻いてあげられなくてごめんなさい。そう自分から言うのもおこがましいような気がして、代わりにこう答えた。

「……何となく」

時計回しにぜんまいを巻きながら、彼の首の後ろの辺りを見ていた。

黒いつるつるした直毛の間から、薄っすら節くれだった頚骨が覗く。

あたしは喉の奥が締め付けられるように苦しくて、乾いた口内から何度も唾を飲む。彼の記憶が捨てられたなんて、口が裂けても言えない。

「何か、されなかったか? 酷いことを」

「大丈夫ですよ」

あたしは目を伏せながら、微笑んだ。

「ヘリの運転が出来るなんて。昔、パイロットだったのでは?」

おだてると、「さあな」と彼は少し笑った。

ぜんまいを限界まで巻く。彼は大きく息を吸い込み、肺を満杯にした後、滔々と吐き出した。
< 130 / 168 >

この作品をシェア

pagetop