ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ぜんまいは昨日巻いたばかりだった。

彼からのコンタクトは、ぜんまい絡み、何か釘を差したい場合、気分、この三つに分類される。

ナオヤは話し掛けたものの、何を言うか決めていなかったかのように、あたしの顔と床とを交互に見比べている。

「どうかしましたか?」

しばらく待ったが応答がない。

あたしは変なのと思いつつ、原因不明のテーブルの穴に向き直る。
古い木の椅子が、体重移動によってがたついた。

「黒谷」

「……はい」

今度は首だけを巡らせる。

「その、悪かったな。この前」

「この前?」

ナオヤはどこかひたむきな眼差しであたしを見ている。

「創手に感化されたのかとか言って。悪かった」

3回連続素早く瞬きする。

そんなこともあったが、ゴローの記憶に気を取られ、すっかり忘失していた。

ナオヤの意外な律儀さに思わず破顔する。
< 145 / 168 >

この作品をシェア

pagetop