ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「へえ、ロマンチックですね」
「男はずっと閉ざされた世界にいた。長い間たった一人きりで。それを少女が救ってやるところから物語が始まる。その少女には奇妙なことに背中にぜんまいが付いてないんだな、これが」
その設定は、どこかで。
ルークはあたしの異議めいた視線を妄想という名の壁でシャットアウトし、うわ言のようにあらすじを組み立て始めた。
アシスタントのあたしは、却下する権限など持ち合わせてはいなかった。
「キーワードはやはりぜんまいだな。巻かれているうちに、いつの間にか彼の心に少女が棲みつくのだ。特別な存在として」
「それはないでしょうね」
聞いていないと思ったのに、ルークが反応を見せた。
「あるだろ。巻けるんだから。その時点で二人は既に特別な関係にあるんだ。自分達では気付いていなくてもな」
「それは漫画の世界だけ」と、あたし。
「いや、現実的にもままある話だぜ?実際」と、ルーク。
沈黙が流れた。
「ネームを」と、あたし。
「了解」と、ルーク。
ケント紙を差し出し、ルークの手の動きを見守る。
彼の心にはヒメがいるでしょうが。
ルークのひょっとこ顔を見ながら、そう思った。