ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「ここよりも汚い場所があるのか」

ナオヤが気落ちしたように言う。彼が身に受けてきたものを考えれば、無理もない反応だ。

「……見方によるのかもしれません」

「なるほど」

ナオヤがあたしの頭にタオルを被せ、その上にぽんと手を置いた。お終いということか。

ほっとするのと同時に、ちょっぴりがっかりもしていた。

「あの、訊いてもいいでしょうか?」

湿ったタオルの下からナオヤを見つめる。

「ん?」

「教会の地下にいた時のことって覚えてますか?」

「……ああ。最悪なことに、覚えている。しっかり意識だけはあったから」

3年も意識がありながら土の中にいたのか、彼は。

よく発狂せずに済んだものだ。苦しくても声一つ出せず、手足も動かず、ただひたすらぜんまいが切れ掛かる焦燥感だけは感じながら。

「すみません、変なことを訊いて。でも、何となく分かります。どんな感じか」

ナオヤが不思議そうにしている。

「……死にたいとか、思いませんでしたか?」
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