ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
彼は壁にもたれ天井を仰ぐ。

「いや。創手を殺してやりたいとは思っていたが。創手とサトウを殺すまでは死ねないと、そればかりを考えていた」

漫然と分かった気がした。

ヒメの無念を晴らすことが彼を生に繋ぎとめていたのだ。

復讐したいという強い気概が彼を正常に在らしめていた。

生きることを最初から放棄していたあたしとは大違いだ。あたしは微笑む。

「強いですね」

「そうかな」

「はい、そう思います」

彼も本当はヒメに会いたいに違いない。

きっと彼は心から彼女を愛していた。彼女を目の前で亡くし、口にはしないけれど、今でも泥の中を這いずり回っているような心情だろう。

ちらりと写真立てが無造作に収められた箱を見遣る。

写真の二人はあんなに幸せそうに微笑んでいたのに、運命というものは何て無残で無慈悲なものか。

いや、無慈悲なのは運命ではない。創手だ。そしてあのビジュアル系だ。
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