ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「……何故、そんなことを言う?」

「別に、深い意味はありません」

そう口にしながら、何やらみぞおちのあたりがジクジクと痛むのが分かった。それをあたしは笑って遣り過ごす。

ぜんまいは1回転したきり、それ以上巻けなくなった。

「おやすみなさい」

引き上げようとすると、ナオヤに手首を掴まれる。どきりとした。

「待てよ。どういう意味?今の」

私は笑った。

「意味なんてありませんってば」

「だけど、」

「もう寝ます。ナオヤさんも、休んで下さい」

彼は何か言いたそうな顔をしていたが、あたしが目で訴えると、手を離した。

太陽が出ているうちに、皆が起きだす前に、あたしは紡績工場を出た。

置手紙の代わりに、途中だったルークの原稿のベタ塗りを丹念に仕上げておいた。

新作の結末が気になったが、もうあたしが目にすることはないだろう。
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