ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
僅かな水と食料を手に、歩いて東に向かった。ひたすら東に。

創手に会わねばと考えていた。創手に会って、あたしと引き換えに彼らの記憶を、そしてヒメの遺体を返してもらう。そのつもりだった。

以前のあたしは生きた屍だった。

何かを作り出すこともなく、出来ることと言ったら、周りを難儀させることだけ。

でもここでは違う。

創手があたしを欲しがっているうちは、きっと何かの役に立つ。

あたしを受け入れてくれた彼らの恩に報いたかった。

ナオヤのために、あたしに出来得る最上級のことをしたかった。

どう逆立ちしたところであたしはヒメにはなれない。美人でもないし、リーダーになるような器だってない。

だからせめて、ヒメを彼の傍に返してあげよう。

ちょっと胸がシクシク痛むけれど、こうして歩いているだけでラッキーなのだ。

今のあたしには普通の体がある。自由に動く手足がある。それだけで充分幸せ。

これ以上望むのは贅沢過ぎて罰が当たる。
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