ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
しかし日が傾く前に次の町に着けばいい、というあたしの見立ては甘かった。

行けども行けども町など見えてくるはずもなく、行き交う車も、標識すらなかった。

それもそうだ。今は昼間だし、ここは僻地だ。

砂利のお陰で辛うじて道と分かる道路は、どこまでも際限なく、世界を一周しそうな勢いで続いている。

「自転車でもあればなあ」

道路脇の草むらに腰を下ろす。リュックから水筒を取り出し、ひり付いた喉を潤す。

スカートの裾に赤いテントウムシが留まっていた。ふっと息を吹きかけると、テントウムシはやれやれという感じで、不規則な弧を描いて飛んでゆく。

灰色の曇り空に紛れ、赤い虫の姿は直ぐに見えなくなった。

これから創手に会いに行くというのに、何だか清々しい気分だった。

「さて、行こうか」

お尻から草の破片を振り払い、また一歩を踏み出した。
< 156 / 168 >

この作品をシェア

pagetop