ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「近くの町まで納品に行くんだが、良かったら乗っていくかい? 荷台で良かったら、だけどね。まあ、乗り心地はそこまで悪くはないと思うが」

「でも、いいんでしょうか」

「構わんよ、なあ、お前?」

奥のおばさんも調子を合わせる。

「ええ、もちろん。女の子が一人で危ないわよ。この辺オオカミが出るっていうし」

食べられてしまったら元も子もない。親切なこのご夫妻の申し出を受けることにした。

荷台には木の箱が何十箱と積まれていた。紐で固定され、風雨を避けるために丈夫な帆布で覆われている。

あたしは箱と箱の間に体を収めた。

荷台のイレギュラーな揺れが何とも眠気を誘う。そう言えば寝ていないんだった。

木箱に頭を乗せると、繋ぎ目の隙間から箱の中身が見えた。

林檎だ。微かに林檎の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

ある名案が兆した。

聖都までウォーキングなど至難の業だ。かと言って、バスの乗車賃もない。

よし、この場合は仕方ない。
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