ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
それから30分程で町に到着した。

「乗せていただいてありがとうございました。とても助かりました」

あたしは大層丁寧にお辞儀した。おじさんは構わないよとニカっと笑う。

「気をつけてね」とおばさんも言ってくれた。

気のいいご夫妻と別れ、町を散策する。

ほんのり橙色に照らされた町並みは、過疎の香りが充満した片田舎の様相を呈している。

表通りを行く人もあまり多くはない。

コンビニの役割を果たしていそうな商店の前にたむろしているのも、中高生ではなく高齢者ばかりだ。

あたしが真っ先に探したのはいわゆる交番だった。

大きな通り沿いにありそうなのだが、初めての町だし皆目見当も付かない。

通りすがりの人に訊いてみた。

「あの、保安官の事務所はどちらですか?」

手に大きな買い物籠を提げた、腰の曲がった老女だった。

「ああ、あの信号機を右に行った所が保安官事務所だよ。角を曲がれば直ぐだからね」

「分かりました。ありがとうございます」
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