ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「何? 麻奈まなちゃん」
ママがボードをこちらに向け、覗き込んでくる。
ママの指が手馴れた速度でボードをなぞる。「あ」から始まって最後の濁点まで。
あたしは瞬きで言いたい文字を伝える。「む」「た」「゛」その三点で瞬きした。
ママが息を飲む。
「無駄?」
肯定の意味で一度瞬きした。
「何を言うの? 麻奈ちゃん、無駄じゃないでしょ? 無駄じゃないのよ」
ママはまた一心にマッサージを再開した。
何だか哀れだった。たぶんママはこの後、廊下でこっそり泣くに違いない。