ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「私はアンソニー・マクファーソン。この村の保安官だよ」
どう見ても東洋人顔なのにアンソニー? 違和感は禁じえなかった。
「それで、君は誰だ?」単刀直入な質問だ。
「黒谷です。黒谷麻奈」とあたしも率直に答える。
「クロタニマナ」と彼は鸚鵡《おうむ》返しに繰り返す。
「どうも、その、先刻医師とも話したのだが、黒谷さん、君は生きているらしいね」
問い掛けとも、確認ともつかない言葉にあたしは瞬きする。
「ぜんまいなしで生きている人間は見たことがない」
そうなのだ。
理解不能で奇妙奇天烈なことなのだが、ここの人達は全員、背中にぜんまいが付いている。
天使の羽根ならぬ、墓石の形にそっくりの双葉の形の大きなぜんまい。
普通の人間にしか見えないのに、シンプルなデザインのちっぽけにさえ見える金属の部品が生えている。
そう、付いているというよりも生えているという感じだった。
生えていないのはここではあたしだけのようだ。自分の夢だというのに、解せないことだ。