ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

「一体どうやって生きているんだい? 動力は?」

「……食べたり、寝たり、とかでしょうか」

あたしの返答にますますアンソニーは眉間の皺を深くする。

「ぜんまいを外した瞬間に人間は息絶える。外して尚、動き回れるのは……幽霊くらいだろうな。もしそんな存在があるとすれば。それ以外には、創手様くらいだろうか」

「ソウシュ?」

あたしの問いが届いていないように、ブツブツと何か言いながら、アンソニーは首を縦に振ったり横に振ったりと忙しそうだ。

「考えても仕方あるまい。説明のつかないことは世の中にいくらでもある」

勝手に納得した彼はこちらに向き直った。

「黒谷さん、どこから来たんだね? その格好は……まるで寝巻きのようだが」

「はい、あたし寝ているんです。病室で」

「病室で寝ている? 今? では私が話しているのは、目の前にいる君は誰なんだ?」

「あたしです。これは、夢の中でしょ?」

アンソニーはまるで憐れむような目であたしを見始める。頭がおかしいと思われているようだ。

あたしはそれ以上言わずに口を閉じた。夢の中の相手に何を言っても無駄な気がした。

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