ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「時計周りに」という指令に、戸惑いながらも従順に従う。
初めははギギギと重い感じだったが、段々と手ごたえが軽くなり、巻き終わる頃にはまた重たくなった。
これ以上巻けないところであたしは手を離す。
泥人間は深く吐息を漏らした。一日中肉体労働に明け暮れた後に、一番風呂に入った瞬間のような、そんな溜息だった。
手の泥を払いながらあたしはしみじみと考えた。一体このぜんまいは何なのかと。
「よし、行こう」
気を取り直すように、泥人間は再びキーを回す。
あたしは唇を舐めて湿らせる。
「あの、行くって、一体どこに?」
泥人間は人間らしい所作で肩を竦める。
「仲間の所」
あたしは貧血を起こしそうになる。
泥人間は複数いるらしい。群れの仲間と一緒にあたしを晩餐にする気か。
隙を見て逃げよう。そう決意した。
面倒に巻き込まれそうだというあたしの予感は当たった。
というよりも既に巻き込まれていることが明白になった。
そしてもう一つのことにも気が付いた。
あたしは今、死にたくないと考えていた。