ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「助けていただいてありがとうございました。さよなら」
それだけ早口に告げ、退却しようとする。
手首を掴まれ、あたしは「ひゃっ」と飛び上がる。
泥人間があたしを見下ろしている。
彼は上背がある。180センチ近くありそうだ。なので、あたしは必然的に首を後ろに75度位の角度で曲げ、仰向く姿勢を取る。
「やめておけ、オオカミに喰われて終わりだ」
一緒に行ったところでどうせ同じでは? と邪推したが言わないでおいた。
「それに、あんたは俺を助けた。あんたがいないと困る」
そう説かれたがあたしには彼を助けた記憶はナッシングだ。
それに面識もないのに何を困ることがあろう。
大体彼の言葉は端的過ぎて理解出来ない。
眉尻をポリポリ掻いていると、泥人間があたしの手を引いたまま、支配的に歩き出した。
「うええぇぇ……」
あたしは半泣きだった。これでは逃げられない。