ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
アジト
洞窟の入り口らしき地点に出た。入り口が丸太を組んだ扉で封鎖されている。
泥人間の巣だろうか。
ああ、どうせなら食べられる前に、お寿司でも食べておけば良かった。下らない後悔が過ぎる。
洞窟の内部には仄かな光が拡散していた。
岩盤を利用した天井を木材で補強し、床は板張りになっている。
大きなストライプ柄のソファーにテーブル、本棚、ランプ。泥人間に相応しい居住空間とは言い難い造りだった。
奥のダイニングらしき所に読書中の人がいた。
遠目に見てもぜんまい以外は普通の人間だった。
長い髪を後ろで束ねた、太った若い男だ。
彼は来客を察知し、本を投げ、敵に遭遇したかのように手近のモップを装備した。
それら一連の行動の後、メタボリックな長髪の男、略してメタボロン毛は、眼球を目一杯に見開いた。
「……まさか、ナオヤ?」
ちろっと横を見てあたしに衝撃が走った。泥人間が微笑んでいる。