ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し


「ああ、信じられねえ。おい、みんな。ナオヤだ! ナオヤが帰ってきたぜ!」

メタボロン毛の大声を聞きつけ、奥から人が三人出てきた。

どの人も泥人間ではなかった。ぜんまい付のただの人間だ。

「ナオヤ、よく無事で……。毎日お祈りしてたんやで」

緩やかに波打つ髪をアップにし、下がった眦(まなじり)の皺が親しげな中年女性が近づいてきた。

息子に会った母親みたいな笑みを浮かべている。

隣にいたのは若い女性だ。背が高く、おでこを出したポニーテールが快活な印象を与えた。

成長期に滞りなくすんなり伸びた手足と、黒目がちで少し目と目の間が離れているところが、サバンナに生息するインパラを思わせる。

「ひどい顔ねえ」と彼女は可笑しそうに笑いながらも、感涙を堪えている様子だ。

「また会えるとは正直思ってなかったけど、とにかく嬉しいよ。あの呪いをどうやって……」

三十代前半くらいの肌の浅黒い男性が、泥人間の肩に親しげに手を置く。

南国出身のような、彫りの深い顔立ちで、昔サーフィンをやっていました、という雰囲気をそこはかとなく醸し出していた。

「その、彼女のことは、本当に、何て言っていいのか……」

「いや」と泥人間。

< 39 / 168 >

この作品をシェア

pagetop