ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

ナオヤはシャワーを浴びてくるとどこかに消えた。

泥人間がシャワーなんて浴びた日には溶けて排水溝に流れるのでは、と余計な懸念を抱く。

リビングルームみたいな部屋で傷の手当てを受け、膝に絆創膏を貼ってもらった。

「まあ、裸足やし。痛そうやねえ」

おばさんの温厚さがママの面影とダブった。

ママ、どうしているだろうか。眠ったまま起きないあたしの横で泣いているかもしれない。

胸が切なくなる。あたしを忘れて、一刻も早く楽になってもらいたい。

「あんた、どっから来たん? どこの子?」

保安官にも同じことを訊かれ、寝ていると答えたら変な目で見られた。そこで答え方をアレンジした。

「……日本」

 おばさんが首を捻る。

「ニホン? 聞いたことないわ」

彼女の言葉に、あたしが今度は首を傾げる。

どう見てもおばさんは日本人だし、第一関西弁じゃないか。

次第に思考回路が混乱をきたしたので考えを追いやった。

夢の中なのだ。深く考えてもしょうがない。

「あの、どうしてイチゴを食べてはいけないんでしょうか?」
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