ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

ではどこに? と訊いたが教えてもらえなかった。無断で他人の服を着てもいいのだろうか。

「ええのんと違う?」おばさんが即答する。「あんたはナオヤが連れて来た子やし」

「はあ」と言葉の意味を消化不良のまま、おざなりな返事をした。

部屋の奥にバスルームがあるから使ってと言われた。今日からここに泊まれとも。

今日からという単語に引っ掛かる。

素性の知らない人間を、しかも連泊させてくれるのだろうか。

後でお金を請求されたらどうしよう。一銭もないのにと気が気でなかった。

おばさんは大笑いした。

「お金なんて取らんて。それに、ナオヤがあんたをどこにもやらんと思うし」

「どこにもやらない?」

「そう、あんたは彼のぜんまいを巻いてやらんといかんのやろ?」

「あたしじゃなくても、ここには人の手がいくらでもあるじゃないですか」

「そんなに単純なこととちゃうねんで? 誰でもいい訳とちゃうし」

要領を得ない回答が跳ね返ってきた。

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