ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

ナオヤが眉宇に皺をぎゅっと寄せる。穴が空く程ねっとりと見られ、気分を害したようだ。

「目の色が違う」と言うと、ナオヤは「ああ」と気のない返事。「ぜんまいが切れそうだったからだろう、さっきまでは」

ぜんまいの回転が切れ掛かると、目の色が金色に変色していくということらしい。

金色は危険信号ということだ。

今は黒いのでぜんまいが満タンを表示している。

他人事ながら大変なのだなと思った。

「誰もいませんね」とリビングを見渡す。

「もう直ぐ朝になるし」

そんな時刻だったのか。あたしはいつも不眠気味だったので、夜通し起きているのも珍しいことではない。

「座れば?」と勧められる。

自分が柱にまだ抱きついていることに気が付いた。

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