ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
もう一度空を仰ぐ。
はやる心を静めて、自分の触覚を研ぎ澄ませた。
右手、左手、右足、左足の所在を感じた。四肢が横たわっているのが分かる。
背中、お尻、頭が重力で地面に押し付けられ、柔らかい草の上に寝転んでいることまで知覚出来た。
あたしは感嘆の声を漏らしそうになる。
両腕で踏ん張り上半身を起こした。首を巡らせてせて辺りを見晴るかす。
15センチ程の背丈の草が風に靡き、波のように寄せては返している。深緑の海にいるみたいだ。
背後にはこんもりとした黒い森、更に奥には空と同じ色の山脈が連なっていた。山の谷間にある丘陵だ。
ポストカードでしか見たことがない、これぞ絶景と言わしめる大パノラマが三次元で展開されている。
手を支えにし、産まれたての小鹿さながらにプルプルと四つ足になり、次にゆっくり両足で立ち上がる。
多少立眩みを覚えたが、自分の足で確かに立っていた。
笑いが込み上げた。
「ふ、ふ」と喉から音が出て、嬉々とした。
「あ……あ、あ。あー」
最初は風邪を引いたように掠れ気味だったが、段々とはっきりした声になった。
あたしは初めの一歩を踏み出した。足はちゃんと前に出た。