ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ナオヤから一人分のスペースを空けてソファーに腰を据える。
彼はソファーの背もたれに肘を突いて、斜めに腰掛けていた。ぜんまいがあるので真っ直ぐ着席出来ないのだ。
彼は何かのバインダーを開いている。そこには新聞記事の切抜きがびっしりと貼られていた。
〈聖都新聞〉という新聞だ。
「何をしているんですか?」
「俺が知らない間の歴史のおさらい」
受験勉強した頃を思い出した。あんなに暗記した日本史も今は忘却の彼方だ。
ふと視線を感知した。ナオヤの目線があたしを上から下まで往復する。顔を見ないので服を見ているのだろう。
「ヒメさんという方の服を借りました」
「そのようだな」とナオヤは愛想なく目を逸らした。
彼の顎の左脇にホクロを発見した。
ともすれば近寄り難い印象の彼の面差しに、それがどこか一点の余地というか、直径3ミリの愛嬌を添えている。
あたしは想像力を働かせた。もし彼が学校にいたならば、○○王子というあだ名が付いていただろう。
……氷の流し目王子とか。
ああ、我ながら捻りがない。