ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「あそこにいるって、よく分かりましたね」
「怪しい奴は牢屋に入れられると、大体相場が決まっている」
失敬な発言とも受け取れるが、彼だって泥塗れだった時は非常に奇怪だった。
泥人間になるまでどれくらい時間が掛かるものか。興味が頭をもたげ、あたしは負に傾倒した意気地を持ち直す。
「土の中にどれくらいいたんですか?」
「この新聞の日付から察するに」殆ど上の空のように彼は言った。
「たぶん、3年くらい」
「さ、3年?」
気が遠くなった。あたしは事故ってから半年と少しベッドにいたけど、それだけで狂いそうになったというのに。
「何でそんなことに?」
彼は静かにあたしを見遣り、ページを捲る。
「記憶を取り戻しに行って、創手に呪いを掛けられた」
「呪い? それで土の中に3年も?」
ナオヤは頷いている。ひえーと思った。夢なのにここは恐ろしい世界だ。
「さっきあたしが助けたって言ってましたけど、もしあたしが来なければ、もしかしたらずっと土の中?」
「ぞっとするな」とナオヤは答えた。
ぞっとした。
あの暗い地下室の土壁の中に永遠に閉じ込められたら、おお、嫌だ。悪寒がした。
ふと思い返す。壁から出ていた正体不明の物体、あれは彼のぜんまいだったのだ。たまたまあそこに肘を突いたから。
自分がもたらした天文学的な確立をざっと計算し、くらくらした。