ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
動けずに俯いていると、ナオヤが目線で階段の向こうを促す。
「もう遅い。寝たら?」
「え、あ、はい」
追い返されるように起立したが、彼は着座のままだ。
「あの、寝ないんですか?」
「俺は土の中で飽きるほど寝た」
些か自虐的とも取れるが、彼もユーモアの引き出しは持っていたようだ。
あたしは微笑みながら部屋に引き揚げる。
「黒谷、年は?」と取って付けたような声が追い掛けてきた。
「18歳です」
だからどうしたということもなく、彼は頭をこくんと動かしただけだった。
きっと彼は自分の本当の年齢を知らないのだろう。
ナオヤはあたしなりの推定で二十代前半だが、彼から発散される倦んだ雰囲気が、年齢以上の落ち着きを見せていた。
落ち着きならいいが、日陰の陰鬱さを内包しているようにも見えた。